はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」
これは、私が初めて親元を離れ、一人暮らしを始めた頃の話です。
今のように、電子マネーやICカードではなく、現金決済が主流の30年前の話です…
(それでは本文)
私は見知らぬ土地でバスに乗ることが苦手でした…
それは運賃の支払い方法が、その街々やバス会社によって異なっている上に、全てが現金支払オンリーの世界だったからです。
私が生まれ育った街では、バスは後部にある扉から乗り込み、小さな箱から出て来る乗車券を受け取ります。
乗車券には乗車番号が書かれており、停留所を通過する度に変わる前方の料金表を見て、降車する際には、その金額を運賃箱に投函して前方の扉から降りる仕組みでした。
この運賃箱へ投下する金額は、乗車賃ピッタリでなくてはなりません。(当たり前ですが…)
足りない場合には不足料金が表示される一方で、過剰に支払ってしまった場合には、お釣りは戻って来ません。
よって、初めての場所にバスで行く際には、バス前方の料金表を見ながら、手元の小銭を数えて、ドキドキしていたものです。
(今では、簡単にネットで料金を調べられるので、現金でも苦労しませんね!)
その様な環境で育ち、他の街に転居して更に私を苦しませたのは、前方の扉から乗車するスタイルのバスがあることでした。
その場合、運賃箱に乗車料金を投下してから乗車するのですが、幾ら投入すれば良いのか分かりません…
更に、乗車時点では運賃を支払うと夢にも思わず、小銭もそれ程持ち合わせていませんでした…
ところが、前の人達は次々に乗車し、何がしかのお金を運賃箱に投下し、お釣りが出て来るのを受け取っている人もいました。
多分、均一料金内で運行するバスなのでしょうか…
人にモノを尋ねることが苦手な小心者の私は、慌てふためきながら、運賃箱の前でオロオロとしていました…
運転手さんにすると、良く遭う手の掛かるお客の一人なのか、丁寧に説明をしてくれ、私はその指示に従い無事にバスに乗り込むことが出来ました…
そこから先は、頭が真っ白となって余り覚えていません…
後ろに並んでいた人達の視線がひどく気になりました…
乗車中も、終始周りの人達の視線を過剰に感じてしまいました…
そして時は流れ…
今では、ICカードで乗り降り出来るので、私にとってはストレスの無い、夢のような時代が到来したように思えます。
私の様な、小心者で田舎者がそんな「あの日」を思い出した本日でした。
(おしまい)
本日もお読みいただきありがとうございます。