たわいもない話ですみません…
自慢ではないが、私は財布に少額のお金しか入れていない。
大抵3千円程度…
財布の中が500円を下回ったところで、やっとATMにてお金を引き出す。
その場合も3千円…
飲み会がある日などは、当日になってやっと、その晩に使うであろう金額だけを引き出すようにしている。
普段の所持金で言えば、中学生や高校生の方がよっぽど多いに違いない。
私がお金を多く持ち歩かないのは、財布にお金が入っていると、なぜかあっと言う間に無くなってしまうから…
多分、気持ちが大きくなって、あればあるだけ使ってしまうからだろう。
また、大きな買い物や車のガソリンなどはクレジットカードで支払うため、日常生活において現金をそれ程持ち歩かなくても特に問題はない。
その様な中で事件は起こった…
その日私は、久しぶりの雨天にて、会社までバスで行くことになった。
(普段は自転車通勤が主です)
当日の持ち合わせは、会社までのバスの運賃である180円。
(正確には、その他に五円玉、1円玉の類いが何枚か財布には入っていた…)
といっても、私にとっては良くあることで、昼休みにでも、近くのATMでお金を引き出せば問題ないと考えていた。
そして会社までのバスの中…
雨のせいで、車内はいつも以上に混み合っていた。
目的地近くになって、私はバスの整理券とともに180円を握りしめて席を立った。
ところが、その手から百円玉が落ちて、バスの車内後方に転がって行ってしまったのである。
百円玉を追いかけようにも、車内は混み合っていて身動きが取れない。
そうしている内に、バスは目的の停留所に到着してしまい、私はバスを降りる人の流れに押されて、前方にある運賃箱に向かった。
前方の人達はICカード、定期券、現金などで手早く乗車賃を支払い降りて行く。
直ぐに私の番は回って来てしまい、仕方なく運転手さんに「今、百円玉を落としてしまい…実は所持金がこれだけしか無くて…」と、言葉に詰まりながら正直に話した。
後方の人達の冷たい視線が、振り向いてもいないのに感じられる。
大の大人が180円しか持っていないなど、ましてやそれを落としてしまってバスの運賃が払えないなど、中々信じて貰える訳がない。
それ位の金額ならば、小学生でも持っている…
ところがその運転手は、にっこりと笑い「次にご乗車された時、支払って頂ければ結構ですよ」と言ってくれたのである。
その笑みは、180円しか持っていないと話す私を、呆れたり馬鹿にしたりするものでは無く、気の毒に思う親切心から来るものに感じられた。
私は「申し訳ございません」と頭を下げてバスのステップを駆け降りた。
バスを降りると、あまりの恥ずかしさに顔を伏せ、逃げるように足早に歩き出したものの、私を信じてくれた運転手の方にいつか必ず応えようと、強く誓った。
数日後、私はまたバスに乗車することとなった。
私は先日の運転手のご厚意に応えるべく、180円の乗車賃であったが280円を運賃箱に入れるつもりでいた。
ところが思わぬ事態が発生する。
何人か前の人が乗車代金を余分に投入したらしく、運賃箱でエラーが発生してしまい、その解消に運転手が苦慮している様子を目にした。
今日の運転手は先日の方とは違う人でもあり、また安易に乗車賃以上の金額を運賃箱に投入してしまったならば、運賃箱がエラーとなるため、かえって迷惑を掛けてしまうのではなかろうか…
結局私は通常の運賃を支払い、バスを降りた。
そして先日支払えなかった100円については…
財布にしまうのも何なので、近くの神社のお賽銭箱に入れ、バスの安全運行をお願いした。
(おしまい)
本日もお読みいただきありがとうございました。